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変わったことより、気づいたこと|やすらぎの里、一週間〈第六話〉

朝、目が覚めて、窓の外を眺めた。

今日もいい天気だ。

明日は、もう帰る日。

来たばかりの頃は、
一週間もあると思っていたのに、
過ぎてみるとあっという間だった。

最初の頃は、
何もしない時間が落ち着かなかった。

スマホを見たり、何か予定を探したり。

それが今では、
窓の外をぼんやり眺めている時間が、
けっこう好きになっていた。

朝の空気を吸いながら、ふと思う。

帰ったら、
またいつもの毎日が始まるんだな。

仕事も、家のことも、今までどおり。

でも、なんとなく、
来たときとは違う気がしていた。

何が違うのかは、
まだうまく言えないけれど。

一週間を振り返る時間

午後は、
大沢さんとの帰る前の面談があった。

この一週間の体調や過ごし方を振り返り、
帰ってからの暮らしについても話す時間だ。

「一週間、どうでしたか?」

そう聞かれて、少し考えた。

「最初は、何もしないのが落ち着かなかったんです」

初日のことを思い出した。

せっかく来たのだから、何かしなきゃ。

ちゃんと休んで、元気にならなきゃ。

そんなふうに思っていた。

でも、いつの間にか、
眠たいときには寝て、
歩きたいときには歩くようになっていた。

「何か特別なことをしたわけじゃないんですけど、なんだか気持ちが楽になりました」

そう話してみたものの、
まだ言い足りない気もした。

この一週間で、
何が変わったんだろう。

大沢さんと話しながら、
何かが言葉になりかけているような気がした。

最後の夕食は、ご褒美食

夕食の時間。

食堂に入ると、
テーブルには料理のお品書きが並んでいた。

今日は、
楽しみにしていた「ご褒美食」だ。

とうもろこしが入ったご飯。

久しぶりのお魚、
鯵とお野菜の揚げびたしが嬉しい。

人参のサラダやミネストローネが色鮮やか。

「わあ、美味しそう」

思わず声が出た。

最初に来た頃は、
食事を見ても、どこか頭で考えていた。

これは何カロリーだろう。
身体にいいものかな。
食べ過ぎない方がいいかな。

でも、
今は目の前の料理を見て、
素直に美味しそうだと思う。

とうもろこしのご飯を、ひと口。

やさしい甘さが、口の中に広がった。

ゆっくり噛んで、味わう。

「これ、美味しいですね」

向かいの人と顔を見合わせて笑った。

一週間前には知らなかった人たちと、
こうして同じ食卓を囲んでいる。

それも、なんだか嬉しかった。

帰ってからも、美味しく、楽しく

夕食の後は、
帰宅後の過ごし方についてのお話があった。

帰ったら、
どんなものを食べたらいいんだろう。

また忙しい毎日に戻ったら、
せっかくの一週間が無駄になってしまうんじゃないか。

そんなことも、少し気になっていた。

でも、お話の中で印象に残ったのは、

「たまのご褒美は、存分に楽しむ」
という言葉だった。

健康にいいものばかりにこだわりすぎて、
食べる楽しさをなくしてしまうのも違う。

好きなものを食べるときは、
我慢しすぎず、ゆっくり楽しむ。

帰ってからは、
毎日きちんとした生活をしなければ。

どこかで、そう思っていた。

でも、完璧に続けなくてもいい。

まずは、最初のひと口を、
ゆっくり味わうことからでもいいんだ。

そう思うと、少し肩の力が抜けた。

「この旅で感じたこと」

その後は、
テーブルごとに分かれて、
一週間を振り返るワークがあった。

お題は、
「この旅で感じたこと」。

一人ずつ、
この一週間で感じたことを話していく。

よく眠れたこと。

食べることが、
こんなに嬉しいと感じたこと。

何もしない時間が、
思っていたより心地よかったこと。

同じ一週間を過ごしていても、
感じたことは人それぞれだった。

ほかの人の話を聞きながら、
自分の一週間も思い返していた。

初日の緊張。
何もしないことへの戸惑い。
久しぶりに感じた空腹。
食事の美味しさ。
海を眺めながら歩いた時間。

そして、
何をしている人かも知らないまま、
気楽に話せるようになった人たち。

自分の番が来た。

少し考えてから、口を開いた。

「最初は、何か変わらなきゃと思って来たんです」

もっと健康的に。
もっと規則正しく。
もっとちゃんと。

ここに来る前は、
今の生活を何とかしなきゃと思っていた。

「でも、この一週間で嬉しかったのは、何かができるようになったことじゃなかったんです」

話しながら、自分でも少し驚いた。

「ゆっくりご飯を食べたり、海を眺めたり。何もしない時間が、こんなに気持ちいいんだなって」

言葉にしてみて、
ようやく分かった気がした。

何かを大きく変えたかったのではなくて、
少しゆっくりしたかったのかもしれない。

「帰ってからも、こういう時間を少し作れたらいいなと思います」

話し終わると、
周りの人たちが静かにうなずいてくれた。

一週間前は、
知らない人たちだった。

今も、
何の仕事をしているのか
知らない人がいる。

でも、その人が
この旅で何を感じたのかは、少し知っている。

なんだか、
不思議な関係だなと思った。

最後の夜

部屋に戻って、
明日持って帰る荷物を少しまとめた。

明日になれば、
この一週間も終わる。

帰ったら、
またいつもの暮らしが始まる。

仕事も、家のことも、
きっと今までどおり。

でも、朝の空気が気持ちいいこと。
ゆっくり食べると、美味しいこと。
何もしない時間も、悪くないこと。

そんな小さなことを、
前より少し感じられるようになった気がする。

帰ったら、
朝に少し歩いてみようかな。

気持ちのいい日だけでもいい。

毎日続けようと、
決めなくてもいい。

一週間で、
人生が大きく変わったわけじゃない。

でも、
自分が気持ちいいと感じることを、
前より少し分かるようになった。

それだけでも、十分な気がした。

この感じを、
帰ってからも思い出せるだろうか。

明日は、帰る日。

最後の夜は、
いつもより少し早く布団に入った。

次回、最終話「いつもの暮らしへ。」へ続きます。

やすらぎの里、一週間。

「第一話 全部まとめて、ちょっとリセットしたくて」

「第二話 何もしなくていいって、意外と難しい」

「第三話 今日は、こっちがいい」

「第四話 食べるって、こんなに嬉しいことだったんだ」

「第五話 何をしている人か、知らないまま」

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