情報が氾濫し、ストレスにまみれた現代人は「考えすぎによる疲れ」つまり大脳新皮質に偏った生活によって様々な不調をきたしているとみることもできる。
人間と言えども動物であり、その自然性から離れてしまったことで、現代人特有の不調をきたしているのではないか。
空腹状態で野山を駆け回る。
水を浴びる。
爬虫類や動物のような動きをする。
スキンシップをする。
ポカンとする。
こうしたいかにも野性的な取り組みは、爬虫類にもある脳幹と大脳基底核、鳥類や下等哺乳類になって発達してきた大脳辺縁系を刺激することができる。
乳幼児がはいつくばり、そのうちハイハイするようになり、おもむろに立ち上がっていくプロセス。
これはまさに進化の過程の再現である。
この一連の過程を経て乳幼児は力強い二足歩行と生命力を獲得する。
ところがこの一連のプロセスを人為的に妨害した乳幼児、つまりハイハイをあまりさせず、すぐに立ち上がらせた乳幼児はその予後が極めて悪いという実験データがある。
健康上芳しくないのだという。
それは動作を行っているときに関連する脳の部位が活性化していることを表している。
進化の過程で脳は延髄、橋、中脳、大脳と上積みされる形でバージョンアップされてきた。
人間が他の動物と異なるのは、この最も外側を縁取る大脳皮質の発達である。
乳幼児は生物の進化の過程をたどりながら、その時代に相当する脳の部位を活性化しながら発達していると見ることができる。
つまり、はいつくばり、ハイハイをし、立ち上がる、このプロセスを丹念に行われなければ、脳の発達異常が起こっているとも限らない。
土台となるものが不十分で、その上位であり人間を人間たらしめる大脳の発達もままならないであろう。
養生館で行われる生活そして動作の野生化は、人間のさらなる可能性を切り拓いていくものであって、同時に生命としての過去にさかのぼり、土台となる部分の再構築を行うものでもある。
磐石の土台があって、上位の人間としての可能性も拓かれるというわけである。
ハイハイをしてみたり、トカゲのような動きをしてみたり、飛んだりはねたり、野性味あふれる動きを行ってみる。
一見野蛮にみえるのだが、その心身に対する効果、脳機能的な効能は強烈なものがある。
背骨ひとつとってみても、普段の日常生活では体に手足が生えていて、体幹とは隔絶した形で小手先の動きに終始していないだろうか。
ところがトカゲの動きを模してみると、背骨がダイナミックに波打つようになる。
しゃくとり虫を模してみる。
これは背骨が上下にダイナミックに波打ってくる。
日常ではまったく体験し得ない動きである。
身体運動の開発という観点から見ても、脳の神経回路の開発という観点から見ても、目覚しい成果が得られる。
実際、ダウン症や自閉症などの子どもを対象に行われる療法に、こうした爬虫類や動物を模倣する運動法が卓効を示しているという。
現在急増するうつなどの精神疾患に対する効果も見込めるのではないだろうか。
身体には希望がある。
どうせなら人間として、さらなる進化を遂げようではないか。
力強く、しなやかに
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