「新緑の森の中へ」
標高1000mの八ケ岳山麓はあたり一面花盛りです。小さな黄色い花の暖紅梅に始まり、山里に春を告げる純白のコブシ、梅、桜、花水木、レンギョウ、雪柳、芝桜、水仙・・・。冬の厳しいこの辺りでは春の訪れが遅いため、暖かくなると草木が一斉に花を咲かせます。長い冬の間、緑の葉を落とした森からは色がなくなっていたので、みずみずしい春の花の色はより鮮やかに目を楽しませてくれます。
今年は2月3月が寒い日が多かったので、本当に春が待ち遠しく感じました。夏になると嫌というほど伸びてくる草の緑にでさえも春を感じて、もっと早く伸びて辺り一面緑にしてくれないかと思うほどです。こんなにも春を有り難く、自然の巡りの力の偉大さを感じられるのも、この八ケ岳で冬を越したからこそでしょう。八ケ岳の春はどんなに厳しくても、辛くてもみんなに春は必ずめぐってくるからと優しく語りかけているようです。
都会に暮らしていたときでも庭木や電車の中から眺める河原の景色に季節を感じていたのですが、八ケ岳で暮らすようになってからは季節の変化を身体全体で感じるようになりました。肌に感じる風、気温、一日ごとに表情を変える八ケ岳の景色や木々の芽吹きの状態、草木の香り、気持ちよさそうにさえずる鳥の声・・。特に朝「テラ」と散歩にいくのは私の一番のお気に入り時間で、森の精気や木々の匂いが充満しているので、散歩しているだけで身体に元気が満ちてきます。治療ということを仕事にしている私にとって、この自然の中で暮らしているということがとても大きな力になっているのです。八ケ岳の森から元気をいただいて、ゲストの方にその元気を伝えてあげる。結局、私もゲストの方も森の力で元気になっているんですね。
東洋医学の基本には陰陽五行という考え方があります。これはこの世界に存在するすべてのものを5つの働きに分類して、それらのかかわりから自然の摂理を解くものなんですが、季節もその働きの中に分類されます。春はその中で木(もく)というグループに分類され、朝日が昇る東の方角とか木々がのびのびと成長していくような、これから新しいことが始まってどんどん成長していく、そんなエネルギーを持っているのが春という季節なのです。
この春のエネルギーをうまく使って、新しいことを始めたり、のびのびした気持ちで毎日を過ごすことができれば、春という季節はとても気持ちのいい季節になります。ところが、自分のやりたいことを押さえつけられている環境だったり、自分の気持ちを押さえ込んでいるような人にとって春は気分が不安定になったり、憂うつになったりと調子を崩しやすい季節でもあります。精神科の病院がいちばん忙しくなるのもこの春の時期なのです。
自然からかけ離れた生活をしている人はあまり実感がわかないかもしれませんが、子供や動物は敏感に季節の変化を感じ取り、そわそわと落ち着かなくなります。家の中に閉じこめられたり、鎖でつながれたりしないで、自然の中を思いきり駆け回りたくなる、そんな力をもっているのが春という季節なのです。
普段あまり体を動かす機会がない人や、運動しようと思っていてつい先延ばしにしていた人は、この春の力を味方に思い切って始めましょう。この季節は都会でも新緑がきれいで陽気もいいので運動するにはもってこいです。
いままであまり運動をしていなかった人はまず歩くことから始めましょう。今はおしゃれで機能的なウォーキングシューズが沢山ありますから、一足新調してみるのも手です。履き心地のよさそうな靴はつい履いてみたくなるものですから、散歩に行く回数も増えるというものです。新しい靴で散歩すれば気持ちも新鮮になり、いつもの景色も新しい発見があるかもしれません。
普段は家の近くを散歩する位しかできないと思いますが、休みの日には思い切って遠出して自然の中を思いきり歩いてみましょう。本屋さんに行くと手軽なハイキングコースの本が出てますのでそれらを参考にするといいでしょう。1~2時間電車に乗ると結構いろんなところに行けるものです。
休日の朝、普段より少し早起きをして、電車に乗って出かけましょう。休日は電車から見える景色も違って見えますし、行き帰りの電車でボーっと景色を眺めるのもいいですよね。目的地に着いたらできるだけ五感をすべて働かせて森の気を感じ取りましょう。目に見えるものだけではなく、注意深く気配の様なものを感じながら森の中を歩いていると、森の気と自分の気が同調してくるのを感じられるようになります。春は一年の中でもっとも気のめぐりが活発になる季節です。普段ストレスで滞りがちな気を自然の力を借りて、のびのびと巡らせてあげるのです。
いつもと違う場所に行って、いつもと違うことをすると気持ちが切り替わりやすいので、とてもいいリフレッシュになります。特に普段からストレスを感じている人やいつも仕事のことが頭からはなれなくなっている人は、気持ちの切り替えが必要です。 さあ、新緑の森の中へ出かけてみませんか。
最近のコメント